-第208回-
創業期に押さえておきたい「ヒト」と「カネ」の話(1)
-漠然とした不安は言語化・見える化しよう!-

創業期はいろんなことに不安を抱くことが多いでしょう。多くの不安のもとは得体が知れないことではないでしょうか。得体が知れないと、どこから手をつけて良いのか分からず、恐怖や不安を感じてしまいます。一方、得体が知れていると、対処方法を考える方向性が見つかります。

今回は、経営資源「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」のうちの「ヒト」の不安について考えてみましょう。従業員を雇う場合、適切な人材の確保や採用ができるか、モチベーションの維持や一体感の醸成ができるかなどの「ヒト」に関する不安があります。「ヒト」の不安は従業員を雇う場合だけの話ではありません。従業員を雇わない場合も、外注先や仕入先、顧客との関係性が構築できるかなどがあります。外注先や仕入先、顧客も情報収集などをするために活用できるので経営資源の「ヒト」として考えることができます。

「ヒト」について考える場合、アメリカの経営学者チェスター・バーナードが提唱した「組織成立の3要素」で考えてみましょう。「組織成立の3要素」とは、組織が成立するためには「共通目的」「コミュニケーション」「貢献意欲」の3つの要素が不可欠であるという考え方です。「ヒト」についてはこの3つに分けて考えると分かりやすいです。まずは「共通目的」です。「これは当たり前だよね」「当然こうするよね」と自分が考えていても、相手がそう考えているとは限りません。どんなに親しい間柄でも、感じ方、考え方が全く同じ人間なんていません。だから目指す方向を揃えるための第一歩として、目的を明確にする、すなわち言語化することが大切なのです。目指す方向である目的を言葉にしたら、「コミュニケーション」をとって擦り合わせる必要があります。1回のコミュニケーションで伝わるとは限りませんので、繰り返しコミュニケーションをとることが大切です。コミュニケーションをとって共通目的を持つように努めていると、お互いに組織に貢献したいという「貢献意欲」が高まってきます。上記の「ヒト」の不安においても共通目的を持つことができていない場合が少なくないでしょう。相手の気持ちや考え、思いが分からないと、漠然とした不安がのしかかってくるので、言葉にして、伝え続けることが大切なのです。また、経営者、個人事業主はビジョンを言葉にすることが重要だと考えます。ビジョンを言葉にしていると、社内外に対して気持ちや考え、思いを伝えることができるので、ビジョンに共感した仲間が集まります。「共通目的」を持つことにつながります。頭の中にあることを言語化することは時間や労力がかかるかもしれません。しかし、長期的に見ると、時間や労力をかけてでも言語化したほうが大きなメリットがあるのです。自分にかかわる「ヒト」たちが「共通目的」を持つところから始めましょう。

次回は、「カネ」の不安について考えてみましょう。

NPO法人中野中小企業診断士会 梅津勝明