-第197回-
DX化で差をつけよう(2)
-DX化の事例-

前回「IT化」と「DX化」の違いとして、「顧客視点で新たな価値を創出していくこと」「既存の顧客ではない新たな顧客に対して商品・サービスを提供すること」を挙げました。では、「DX化」の事例にはどのようなものがあるのでしょうか?

DXの事例で最も認知されているのは「zoom」や「Teams」といったオンラインミーティングツールです。これらのツールはどうして「顧客視点で新たな価値を創出」したといえるのでしょうか? これらのツールが登場する前、打ち合わせは「決められた場所」「決められた時間」に「対面」で実施する必要がありました。例えば就職やバイトに応募したい会社があるものの「場所が遠い」「平日昼間に時間が取れない」などの理由で応募を断念せざるを得ませんでした。しかし、これらのツールにより「場所や時間が合わなくてあきらめていた人」に対して、接点を持つことができるようになりました。

もう一つ事例として「モバイルオーダー」をあげます。オフィス街にある人気のお弁当屋さんにはお昼時行列ができていました。一方で、サラリーマンのお昼休みは短いため、行列に並んで注文する時間がなく、そのお弁当屋さんで買うことをあきらめるお客様が一定数存在しました。そこでモバイルオーダーを導入し、アプリから注文と受取時間を指定することで並ぶことなくお弁当を受け取ることができるようになりました。これは既存の顧客ではなかった「お昼休みの時間が短いサラリーマン」に対して商品を提供することができるようになった事例といえます。

「顧客視点で価値を創出」というと新しいサービス開発をして新しい顧客に提供するような難しい話のように思えますが、従来サービス提供ができなかった顧客に対してデジタルツールを活用し、提供できるようになることも立派なDX化です。できそうなことから始めると「売り上げデータからサラリーマン向けとOL向けに最適なメニューを作れないか」などデータを活用した別な形でのDX化を検討したり、「私は『忙しく働く現代の社会人に食を通してホッと安らぐ時間を提供したい』のかもしれない」と前回少し難しいお話とした、「自身のビジョン」に改めて気づくかもしれません。そのビジョンから考えた時、必ずしも提供手段が「お弁当」(今の方法)である必要はなく、デジタルツールを活用しながら私の想いを届けられないか、と新たなビジネスモデルの検討に思い至るかもしれません。

環境の変化や新たなサービス・競合の登場により、今のままでは厳しいかもしれないと感じる方も多いと思いますが、できることから「DX化」を行っていくことが、生き残りに向けた他と差別化および新たな第一歩となるのではないかと考えます。

NPO法人中野中小企業診断士会 伊藤敬久(いとうたかひさ)