-第189回-
円滑な事業承継に役立つアサーティブ・コミュ二ケーション(2)
-後半:アサーティブな自己表現のコツ-

 事業承継において、経営者と後継者候補のコミュニケーションの大切さが注目されています。事業承継ガイドライン(第3版 令和4年3月改訂)では、親族内承継、従業員承継において対話の重要性が明記されています。ただ、今まで頻繁に連絡を取ってこなかった場合、いざ、「対話」をしようと思っても、話を切り出すタイミングがつかみづらいものです。ある経営者の方は、用事を作って車に同乗した時に、「後を継いで欲しいと思っている。どう考えているか気持ちを聞かせて欲しい」と率直に話をしてみたそうです。
 なかなか対話が進まないなあと思ったら、アサーションを意識した表現法を試してみてはいかがでしょうか。アサーティブなコミュニケーションでは、歩み寄りの姿勢で互いの意見を出し合いながら、根気よく双方が納得のいく結論にたどり着くことを目指します。それには、「1. 自分の気持ちや考えをはっきりさせる」「2. 気持ちや考えを正直に言語化する」「3. 相手の表現を待って理解する」のステップが大切です。
 では、具体的にどうすればよいか3つのコツをお伝えします。
(1)私(I:アイ)メッセージで伝える
 相手に何かを伝える時に、あなた(You:ユー)ではなく、私(I:アイ)を主語にすると気持ちがより伝わりやすくなります。「おまえは仕事が遅い」と断定的に表現すると、相手は「否定された、決めつけられた」と受け取る可能性があります。「仕事が遅い」と感じたのは「私」であり、相手は「そんなことない」と反発するかもしれません。「私は急いでいるので、早くしてくれると嬉しい」と「私」を主語にすることで、相手に受け入れられやすくなるでしょう。
(2)肯定的に話す
 意見の「違い」は「間違い」ではないと捉えることが大事です。自分と異なる意見を間違いだと決めつけてしまうと、「できない」「そうじゃない」と相手を否定的する表現となり、反感を買ってしまいます。「〇〇すれば、〇〇できる」「〇〇のやり方はどうだろうか」と肯定的に表現することで、前向きな話し合いにつながります。
(3)傾聴姿勢を示す
 アサーティブ・コミュニケーションでは、伝えるだけなく、相手の話をよく「聴く」ことがとても重要です。心を傾けて積極的に聞こうとする傾聴の姿勢を示すと、相手は「自分は大事にしてもらっている」と感じることができます。目線や表情、うなずき、姿勢などの非言語コミュニケーションを意識することがポイントです。
 事業承継の場面では、「そんなことは言わなくてもわかるはずだ」「親の背中を見て理解すべきだ」という思いこみや決めつけが起こりがちです。どうすれば、お互いの気持ちや考えを尊重しながら、正直に伝え合うことができるでしょうか。「アサーティブ・コミュニケーション」の考え方にカギがあります。人間関係を円滑にする「自分も相手も大事にする表現法」を、一度試してみてはいかがでしょうか。

◆3月18日〜中野区産業振興センターオンラインセミナー「円滑な事業承継のためのアサーティブ・コミュニケーション入門」の配信を行います。詳細は、産業振興センターホームページをご覧ください。ご参加をお待ちしております。

NPO法人中野中小企業診断士会 井田優里