-第161回-
「自分のせい?他人のせい?」成長するための原因の求め方(2)
-正しい振り返りで部下の成長を促す-

前回、一般的に原因を自分以外の外的要因に求めるよりも、自分自身(内的要因)に求めるほうが人間としての成長を促すことになるが、それが絶対的に良いわけではないということについて触れました。

1.単に自分のせいにするだけでもダメ

心理学者のワイナーは、自分自身の内的要因を、安定的な要因と変動的な要因に分け、安定的な要因として能力、変動的な要因として努力を挙げました。
能力や適性、素質はなかなか努力では変えられません。中には生まれついてのものもあります。一方、努力やスキル、コンディションは自分の心がけで変えることができます。
成功した時は、その原因を安定的なものに求めても変動的なものに求めてもどちらでも良いのですが、失敗した時に努力不足という変動的な要因のせいにする人はモチベーションを維持できるのに対し、能力不足という安定的な要因のせいにする人はモチベーションを維持できないとされています。
なぜなら、失敗した時に、「自分は能力がないんだ」「そもそも向いてないんだ」と(自分では簡単には変えられない)安定的な部分のせいにしてしまうと、あきらめるしかないからです。実際に失敗を能力不足のせいにする人は、何か失敗するとすぐに挫折してしまう傾向があります。
一方、失敗した時に、「自分の努力不足だったから」と(自分で変えられる)変動的な部分のせいにすれば、「次の機会ではもっとがんばろう」と前向きな気持ちになれます。
事実、心理学者の実験でも失敗を能力不足のせいにする人はモチベーションや成績が低く、失敗を努力不足のせいにする人はモチベーションや成績が高いことが分かっています。

2.部下の育成にどう活かすか?

 挫折に弱い部下には、原因帰属のクセを直させる必要があります。たとえば「ついてなかった」と何でもかんでも外部要因のせいにする人には、まずは内的な要因のせいにするよう働きかける必要があるでしょう。
 さらに「自分には適性がない」などと能力など安定的な要因のせいにする人には、「もう少しで上手くいったはず」「足りないスキルを補えばよい」といったように変動的な部分の不足を意識させるような言葉がけが求められます。つまり改善の余地があることを示すのです。「今後、同じ失敗を繰り返さないために、自分には何ができるのか」を考えさせることが本人の前向きな姿勢を育み、成長につなげることができるのです。
 前回のケースで言えば、自信家で能力も高いが、失敗しても外部要因のせいにするA君には、まずは自分を見つめ直すよう促すことが大事です。一方、何か失敗すると、自分の適性の問題にするB君については、適性のせいにするのではなく、努力という自分でコントロールできることに目を向けさせる必要があります。

NPO法人中野中小企業診断士会 三枝元