-第159回-
同一労働同一賃金(2)
-企業経営に与える真のインパクト-

前回は、中小企業にも適用される同一労働同一賃金の制度概要についてご説明しました。今回は、同一労働同一賃金は、人事や人件費総額だけで問題を捉えると、手を打てる範囲は狭まるか、ほとんどないかもしれません。だから、経営の問題と捉えなければならないのです。
まずは、人件費増を見越して、今よりも収益を上げられないかを考えるべきでしょう。だから生産性向上が必要なのです。人件費増加分を人件費総額の中から捻出することはできませんので、費用ということで考えれば、コスト全体を見直して支出を抑えたり、新規採用人数を調整したり、大規模な投資計画を見直したり、経営全体の中で考えなければなりません。これらは、人事部だけでは意思決定できないことです。「同一労働同一賃金」は、経営判断が伴うテーマであり、経営者が危機感を持って対応しなければならないテーマなのです。どのように経営に影響を与えるのかという視点で過去の判例でも、裁判所は、待遇格差のうち裁判所が不合理であると判断した部分については、企業に対し損害賠償を命じる判決を下しています。
ところで、多くの日本人は、自らの持てる能力をいかんなく発揮した結果として経済大国になったと信じていますが、実は正反対で、せっかく高い潜在能力を働き手が持っているのに、それを十二分に生かし切れていないのが実態です。それは、裏を返せば、個々人の持てる力を生かし切るところに、成長の余地がたくさん残されていることが言いたいのです。これまで、「正社員」「パート・アルバイト」「契約社員」といった雇用形態の違いによって無条件に設けていた待遇差は、今一度見直し、改善していく必要があります。
これまでの日本的経営は、人口の持続的増加ということをベースに、自然と拡大していく市場が用意されていたので、会社の規模を大きくすることを目指し、何ごとにおいても上手に管理することが大切なこととされてきました。しかし、人口が減少する中では、生産性を上げることは必要なのです。経営者の方の中には、本音では「労働生産性を上げるのは社員の問題だ」と考えています。残念ながら、それは大きな誤解です。「労働生産性を上げるのは、社員ではなく経営者の責任です」世界一優秀な労働者から先進国最低の労働生産性しか実現できていないという日本の経営の現状は、これまでの日本的経営に何らかの問題があるという証左なのかもしれません。この現実を経営者自身が考えていただくことがその第一歩なのです。
経営の中で「同一労働同一賃金」を考えるときは、単なる人手不足解消のために行う非正規労働者の待遇改善に留まるのではなく、事業構造を刷新し高い付加価値を創造するイノベーションを生み出す土壌づくりのために、性別、人種、年齢といった属性の違いで差別することなく、それぞれの個性を最大限に引き出す「ダイバーシティ・マネジメント」の必要性を考えていく必要があるのです。すでにあるパイを公平に分け直す「分配」に意味があるのではなく、人材の違いの良さを引き出してパイを増やす「成長」にこそ意味があるのです。

NPO法人中野中小企業診断士会 堀川 一