-第131回-
スピーディに事業を軌道に乗せるポイント(2)
-早急に名札をつくりましょう-

前回は、スピーディに事業を軌道に乗せる事は多くの創業者にとっての命題である。
そして、それを実現させるには「名札をつくる事」である。

という話をしました。

今回は具体的な企業(B企業とします)の事例を紹介しながら、名札をつくる事の重要性をお伝えしたいと思います。

私がB企業の創業者とお会いしたのは、先方が脱サラし、B企業の主要事業である中華料理店を始めて1年が経過した時でした。

お会いした際の相談内容は「固定客が付かず、売上に波がある。宣伝販促費にお金が掛かっており、月によっては赤字経営になっている。何とか経営を安定させたいが何から手をつければ良いかわからない」というものでした。

そのような創業者の方に対して私が最初にした質問は

「お店の名札は何ですか」

というものです。しばらく考えた末、創業者の方が出した回答は

「難しい質問ですね・・・Aさんは「辛さ」が良いと言ってくれるし、Bさんは「お酒が安い」と言ってくれる。Cさんは「味が濃いこと」がお気に入りと言ってくれている」

という内容でした。

それを聞いた瞬間、私は「同社が苦戦している理由は名札が無いことである」と確信しました。

更にヒアリングを重ねると、創業者は何よりお客様の声を重視されている事もわかってきました。例えば複数回お店に来てくれる方には、積極的にお声掛けし、お店に対する要望を聞かれていましたし、全てのお客様に対してアンケートを広く募り、記載された要望を自身の経営に反映させていました。

「辛すぎる」という意見があれば辛さを抑える、もしくは一段階辛さを押さえたラーメンを新メニューとして追加してみる、「漫画が読みたい」という意見があれば、漫画を置いてみる・・・

そして徐々にお客様にとって「特に不満はないが、明確な行く理由がない店」になっていたのです。これがいわゆる名札が無い状況です。

私は創業者と何度もディスカッションを実施し「スパイスに徹底的にこだわる」というコンセプトを打ち出しました。そして同キーワードを全ての意思決定や宣伝販促等の基準としました。

具体的には、メニューの打ち出し、HPの記載内容やビジュアル、SNSの発信内容、チラシのデザインなど、全て「スパイスへの拘り」に関連する内容に統一したのです。

結果としてメニュー数は激減し、スパイスに拘りが無いお客様からは不満や改善要望が寄せられる結果となりましたが、同時にスパイスに拘りをお持ちのお客様にとっては「無くてはならない店」となりました。これがヘビーユーザー(ファン)の誕生です。

ファンの方は当然積極的に周囲に同店を広めたくなりますが、広める際も簡単です。

「スパイスにとにかくこだわった店がある。一緒に行かない?」です。

名札を作ることは一見リスクがあるように見えます。
しかしながら名札を作る事でお客様へのメッセージが明確になり、その潔さ(覚悟)にお客様は惹きつけられ、ファンとなります。そしてファンがファンを呼ぶ流れが完成します。

この流れの構築こそ「スピーディに事業を軌道に乗せるポイント」です。

今回は飲食店を例に記載しましたが、他業種でも同様です。
是非自身の事業(会社)の名札をつくる事に集中しましょう。

そして多くのファンをつくり、後悔しない創業人生を送っていただければ嬉しく思います。

NPO法人中野中小企業診断士会 志倉康之