-第117回-
自分の立場が弱い場合の交渉テクニック
- 強い相手にどう対処するか? -
交渉を重ねているうちに、相手の担当者が「これ以上は話し合っても無駄です。私たちの条件は○○です。あとはそちらが受け入れるかどうかです。」などといったように、脅しや最後通牒を突きつけてくる場合があります。このような脅しや最後通牒に対抗するには、どうしたらよいでしょうか。
1.脅しを無視する
まず、あまり相手の脅しに敏感に反応しないことが得策です。単に感情的になっていたり、対面を保つために行っている可能性があるからです。最後通牒の是非に関心が高まると、相手としても途中でそれを撤回することが難しくなります。
この場合、今後数日から数週間の間に相手に撤回できる余地を残すことが賢明です。たとえば、次のように回答してみてはどうでしょうか。
「これまで議論をしてきた点で、御社がこれ以上譲歩するのは難しいのは明白なようです。まず、他の点を話し合い、すべての条件が出揃った後で、もう一度この点に戻ってくることを提案したいと思います。」
こちらが無視しても、相手はもう一度同じことをいってくるだけで、状況がもっと悪くなるわけではありません。「どのみちこれ以上は状況が悪くなるわけではない」と考えると、気分的に余裕が生まれてきます。
2.より受け入れやすいメッセージに注目する
相手は強硬なメッセージのほかに、より柔軟なメッセージを同時に発信する場合があります。たとえば「価格はこれ以上は譲れない」というメッセージのほかに、「取引条件を良くしてくれれば取引を継続することを検討する」というメッセージをほのめかすといったことです。
この場合は強硬なメッセージは無視し、より受け入れやすいメッセージに焦点を当てるべきです。つまり話題をはぐらかすのです。そのうち相手が強硬なメッセージを取り下げることもありえます。
3.相手のさらなる脅しを制する
相手の担当者が脅しをかけてきた場合、注意したいのは、「相手の担当者はあくまで相手の組織の交渉代理人である」ということです。
たとえば取引先はこちらの品質面は評価しており取引を継続したいのに、担当レベルでは価格は下げさせたいので、脅しをかけている可能性があります。また、上司から価格を下げさせろと強くいわれているから、担当者はいやいやながら脅しをかけているにすぎない場合もあります。
この場合、相手の弱点を突くとよいでしょう。たとえば「あなたのご要望は分かりました。残念ながらこのままでは最終的な契約にはかなり時間がかかると考えられます。あなたもそのようにお考えでしたら、上司の方も同席して頂いてはどうでしょうか」などと提案するのです。
相手の担当者は自分のメンツがなくなることを恐れて脅しを引っ込めるかもしれません。また交渉がまとまらないというリスクを相手に知らしめることもできます。
担当者以外の人間を交渉に引き込むことは有効です。相手の担当者としては、一度、脅しをかけてしまった以上は、撤回しにくいでしょうから、他の誰か(たとえば上司)のほうが撤回しやすいでしょう。
4.相手の脅しが無理筋であることを分からせる
取引相手としても「自分が理性的な人間である」と思いたいはずです。よって、相手の要請が無理筋であることを客観的に示せば理解を示すかもしれません。また、相手が実情を分からずに無理な要求をいっているにすぎない場合もありますから、客観的な根拠の提示は有効です。たとえば価格要請を受けたのであれば他社との同様の取引での価格水準を示すといったことです。
相手の立場が強く、交渉の余地がないと感じても、案外そうでもなかったりします。今より状況が悪くなるわけでないですから、試しにいろいろな手を尽くしてみてはいかがでしょうか。
NPO法人中野中小企業診断士会 三枝元