-第116回-
自分の立場が弱い場合の交渉テクニック
- 強い相手にどう対処するか? -

実際のビジネスの交渉に当たっては、こちらの立場のほうが弱いということが多いでしょう。相手の立場が強く、要請を受け入れないと取引が打ち切られてしまいかねない場合、どのように振る舞えばよいでしょうか。
今回は、自分の立場が弱い場合の交渉テクニックについてご紹介します。

1. 自分が弱い立場にあることは絶対に明かさない
交渉はある種のパワーゲームですから、これは基本です。自分の弱点を見透かされてしまうと、相手はこちらに何も譲歩する必要がないと考え、さらにもっと強い要求をしてきたりします。余裕をもった態度で臨むことが大事です。

これに関係しますが、相手が強気で迫ってきた場合、自分では最低限守りたい水準を明らかにしておきます。交渉の用語でBATNA(Best Altenative To a Negotiated Agreement)というものがあります。これは、「交渉が決裂した時の対処策として最も良い案」のことで、交渉にあたっての最低条件に相当します。

たとえば、あなたが転職先を探しているとします。この場合、あなたのBATNAは、「現在勤務している会社の労働条件」となり、これを上回る条件を転職先に交渉することになります。また、あなたが現在失業中だとしたら、BATNAは「失業のまま無収入状態を続ける」ということになります。

交渉に当たってはBATNAが貧弱であることを相手に知られてはいけません。転職の例では、たとえ現在の勤務先の労働条件が悪くても、転職先には知られてはならないということです。なぜなら、相手に知られてしまうと、多少悪い労働条件を提示してもあなたが受け入れるだろうと高をくくるからです。

2.相手の弱みを見つけて突破口にする
相手にも、案外、弱みがあることがあります。たとえば大手の取引先に営業マンであるあなたが呼ばれ、相手から「オタクは他社よりも価格が高い。あと10%値下げしてくれないと取引しない」と迫られたとします。。

あなたをわざわざ呼んだのだから、相手としてもおそらく取引の継続を望んでいるのかもしれません。望んでいないのなら、何も連絡をせずに一方的に取引を打ち切ればよいだけだからです。もしかしたらあなたの会社の製品が他社よりも優れていることを認めているのかもしれないし、業者を切り替えることが煩わしいのかもしれません。それが相手の弱みです。

相手の要請にただうろたえるのではなく、相手の弱みを見つけ、交渉の余地がないか確認してみましょう。もしかしたらこちらが強気に出れば(例:こちらから取引の辞退を申し出る)、相手は要請を引っ込めるかもしれません(もちろんリスクはありますが)

3.独自の価値提案をする
以前、本メルマガでもご紹介しましたが、相手にとっての取引の関心事項は1つではありません。たとえば価格交渉を迫られたとしましょう。この場合、品質、納期、付加的なサービス、支払条件など価格以外のことを持ち出して、こちらのメリットを強調しましょう。

4.返報性の原則に沿う
相手の示している低条件を飲むのは困るが、かといって取引を打ち切られるのはどうしても避けたい場合には、取引することを明確にした上で、何らかの譲歩を示し、それによって相手の譲歩を促すという方法を取るしかありません。

人間には「相手から先に何かをされると、お返ししたくなる」という性質(返報性の原則
)があるといいます。たとえば「10%の値引きでは厳しいので5%ではどうか」「価格面では折れるが、支払条件を良くしてもらえないか」といった交渉の余地があるかもしれないということです。

次回は、「それでも相手が脅しをかけてきたらどうするのか」についてお知らせします。

NPO法人中野中小企業診断士会 三枝元