-第63回-
ライバルとの競争に勝ち残るために(2)
- 常識にとらわれないアイデアが、新しいファンを創り出す -
 
従来のやり方や考え方を続けていては、やはり同じ結果しか生まれません。既に先行している競合会社や大手企業の後追いをしていては、あらたに起業して顧客を獲得していくことなど到底出来ないのです。

5月のコラムでは「アイデアをカタチにする」について学びましたね。
今回は、常識にとらわれないアイデアが新しいファンを獲得する秘訣であることについて、発想や視点を変え口紅を男性に販売する非常識でヒット商品にした、ジバンシーの例でお話しましょう。
 
現在では、名入れサービスは当たり前のようになっていますが、今から30年前は斬新なサービスでした。当時、外資系化粧品は、シャネルとクリスチャン・ディーオールが主流で、シバンシーの化粧品を購入する者は殆どいませんでした。そこでジバンシーは、口紅のキャップに大切な人の名前を彫って『世界で1つだけのギフト』という付加価値をつけるアイデアを思いつき、発売に踏み切りました。このネーム入り口紅は、女性へのクリスマスギフト選びに迷っている男性陣の心をつかみ、5万本の売上を達成しました。

女性に喜ばれる素敵なプレゼントをしようとしても、本当に喜んでもらえるのか自信が無く、買うことに踏み切れなかった男性達の背中をそっと押してくれたのが、名入れサービスだったのです。
この結果、化粧品としてのブランドを男性だけでなく女性にも強烈にアピールするという、大きな成果をもたらすことになりました。
伝統はあるけれど、化粧品においては後発でブランド力もなかったジバンシー。デパートからも相手にされず、スタッフも少人数、広告を出す予算もない、まさにヒトなし、モノなし、カネなしの無い無い尽くしの状況から、男性に口紅を売るというアイデアを絞り出し、逆転の大成功を生み出しました。どんな状況からでもアイデア次第でビジネスチャンスはつかめるものなのです。 

このように、常識や売る側の常識や論理にとらわれず、買う側の視点から物事をみる逆転の発想が、集客につながる近道になります。

最近では集客の仕組みと言うと、ウェブサイトで訪問者を多く集め、見込み客に絞り込んでいく技術的な側面が注目されがちです。しかしながら、集客の仕組みをつくることの原点は消費者の心の琴線に触れ心をつかむことにあります。
買う側の立場に立って不安・不便・不満、つまり買う時に躊躇する「困りごと」に気づき、解消する方法を考え出すことが、新しい商品やサービスのアイデアを生み出すことに他なりません。
売上を伸ばしたい、集客を伸ばしたいという焦燥感から少し距離を置いて、消費者の気持ちに寄り添った時こそ「アイデアの神様」が降りてくる瞬間ではないでしょうか。
(参考出所:口紅は男に売り込め! 著者 高倉豊)

NPO法人中野中小企業診断士会 岡見育利