-第226回-
従業員の定着について考える(1)
-条件提示だけの求人を出していませんか?-
従業員をどうやって確保するのか。人手不足が叫ばれて久しい昨今、事業者の皆様にとっては非常に重要なテーマであると思います。このコラムでは、前半では従業員の定着にとって盲点となりがちなポイントについて、後半では従業員の定着に関するメリット、デメリットを含んだ総合的な観点を解説したいと思います。
「従業員の定着」と言うと、入社してからの接し方、教育、労働環境、待遇等がポイントとして思い浮かぶ方が多いと思います。人手不足のご時世ですから、事業者の皆様は求人においてご苦労をされているのではないでしょうか。出来るだけ良い給料、出来るだけ働きやすい環境を苦心して検討し、評価・報酬制度もしっかり考えてそれを求人に落とし込む。
確かに、これらの項目は従業員の定着にとって非常に重要な要素です。従業員が短期間で辞めてしまう企業は、これら内部の環境に何かしらの問題がある場合が多いです。よって、まず、このポイントが手つかずの企業は急いで改善を始めてください。
しかし、手を尽くして内部の環境を整えても、採用した人材がすぐに辞めることが往々にしてあります。何故でしょうか?
それは、従業員の定着にとって環境整備と同じくらい重要な両輪の一方である、「ミスマッチのない採用を行う」という視点が欠けているからです。ここが盲点になっている企業の場合、環境整備を行ってもイマイチ定着に繋がってこないというケースが非常に多くなります。
そもそも、貴社の考え方や仕事の進め方に合わない人材であれば、日々の出社自体が苦痛になる恐れがあります。会社の考え方に違和感がある。仕事の進め方が妥当だと思えない。こういう食い違いがあれば、どれだけ内部環境を整備しても効果が薄く、従業員はほどなくして退職という選択肢を選ぶことになります。自社の考え方や仕事の進め方にマッチした従業員を採用したうえで、社内の環境を整えて長く居たい会社にしていく。この両輪が揃って始めて社員が長期間定着するのです。
では、「ミスマッチのない採用を行う」にはどうすれば良いのでしょうか?
まず、採用に関する発信を見直すことをお勧めします。求職者が求人に応募する際に会社の情報を取得するメディアはなにか考え、その発信内容を工夫し、会社の考え方や仕事の進め方を理解したうえで求職者が応募してくるようにするのです。求人情報を掲載するメディアでしっかり記者の理念や考え方、求める人材像を具体的に述べる、仕事の内容や何を評価するのかを詳細に伝える、求職者のインサイト(求職者の心の核心部分)を見抜き、そこに対して自社の考えをアピールしていくこと等が重要です。
それに加えて、HPやSNSでも採用専門の発信をしっかりと行うとさらに効果があります。
また、それらはそもそも「自社の求人に応募してもらう」という点に関しても非常に大きな効果があります。
次回は「そもそも人材の定着って絶対に良いことなの?」というテーマでお送りします。
NPO法人中野中小企業診断士会 早田 直弘