-第173回-
顧客も気がついていないニーズを見つける方法(2)
~ デプス・インタビューで深層心理に迫る ~

 前回は、新商品や新サービスの開発にあたり、画期的な価値を提案するには、顧客が抱える潜在的なニーズを掘り起こすことが有効であること、そのための手段として、デプス・インタビュー(1人の対象者に対して価値観や利用・購買動機について深くインタビューするというもの)があることについて取り上げました。

1.デプス・インタビューの例

デプス・インタビューの例として、流れは次のとおりです。

紙のアンケート調査での回答と、実際に話をして得た回答では内容が大きく異なることはよくあることです。相手の話を直接聞くことは本当の情報を得るためには欠かせません。

<デプス・インタビューの例(シャンプー 50代勤労主婦)>
Q: シャンプーをしているときの気持ちは?
A: 洗っているときは気持ちよくないけど、髪をタオルドライした後とか、ドライヤーで乾かした後はすごく気持ちいい。全身気持ちいいのは髪洗った日。ふあ~っとした感じ。睡眠まで違う気がする。
Q: ふあ~っとした感じとは、具体的にどんな感じですか?
A: ドライヤーで乾かしたときのすごく爽やかな感じ。すごく好き。
Q: シャンプーすること自体はどうですか?
A: まあまあかな。シャンプーした後が好き。
Q: それはどんな気持ちですか?
A: 1日の疲れがとれた感じ。いい気分。すごくいい気分。

このインタビューの内容からは、「ユーザーにとって、シャンプーをするという行為は1日の締めくくりの儀式化ではないか?」という仮説が得られます。そして、販促として、「安眠をテーマとするプロモーションは従来なかった!香りなどで安眠訴求が可能か?」という案が得られます。

2.インタビューの際のコツ

インタビューをする側が持っているイメージの枠組みを超える情報を得ることが目的ですので、被験者に自由に縛りなく語らせることがポイントです。調査目的を明らかにせず誘導しない、事前に用意した質問票に沿った話にならなくても気にしない(脱線を歓迎する)といったことが求められます。

また、対象となる商品や会話の流れ次第では、「この製品を人に例えるとどのような人だと思うか?」や「この製品を利用している人はどんな人だと思うか?」など、思いがけない質問を投げかけることで、対象者に軽い驚きを与え、深層心理を引き出しやすくすることができます。

<ビーフシチューの質問例>
Q:ビーフシチューが仮に意思を持っているとすれば、あなたのことをどのように思っていると思いますか?理由を含めて50字以内でご自由にお答えください。
⇒「『忙しいときにしか使ってくれない』と思っている」と答えた人は、シチューを簡単なレシピだと捉えていて手抜きをしていることに後ろめたさを感じているのかもしれない。
⇒「『特別な日には僕の出番だよ』と思っている」と答えた人は、誕生日や記念日のようなときに、よい材料を使って手間暇かけて作るメニューだと感じていることが分かる。

デプス・インタビューは、大企業でよく使われる手法ですが、経営資源に限界がある中小企業の場合でも、日頃のちょっとした顧客との会話や観察の中から新しい使い方提案のヒントを見つけることができます。

<参考>
『機会発見』岩嵜博論著 英治出版
『買い物客はそのキーワードで手を伸ばす』学習院マネジメント・スクール監修 ダイヤモンド社

NPO法人中野中小企業診断士会 三枝元
https://nakanoku-shindanshikai.com/?p=2014