-第136回-
交渉に当たり準備しておくべきことは何か?(1)
-交渉は始める前に8割決まる-

交渉というとその場での駆け引きで勝負が決まると思われがちですが、準備段階で8割決まります。「部品メーカーの営業マンが自社の新製品について、大手企業との取引実績をつくるために、電機メーカーX社にアプローチする」というケースを例に交渉の準備について解説します。

1.状況を把握する
まずは、交渉にあたっての状況を把握します。ポイントは次のとおりです。

・相手との力関係を把握する
・相手の方が力関係で上の場合、それを操作できないかを考える
・相手の最終意思決定者が誰かを考える
・相手の意思決定に影響を与える存在を列挙する

この取引には、X社の次のような人たちが意思決定に絡んできます。

・バイヤー:売り手との窓口になり、交渉や契約手続き、伝票処理などを行う(例:購買部の担当者)。
・ユーザー:購買される商材の利用予定者。購買仕様の決定に影響力を持つ(例:工場長、
工場の生産管理責任者)。
・インフルエンサー:自分の担当分野の立場から、購買プロセスに直接、あるいは間接的に影響する意見を出し、意思決定を方向づける(例:品質保証部門、経理部門)。
・ディサイダー:購買仕様や業者選定に関し、公式もしくは非公式の意思決定権限を持つ(例:当該事業担当の事業本部長)。
・ゲートキーパー:業者と意思決定のキーパーソンとの間の情報のやりとりや、相互の引合せを司る(例:購買部のリーダー)。

このように取引にからむ様々な人々を把握して働きかけ、自らの影響力を少しでも高めるよう努めます。

2.ミッションを設定する
交渉のミッションは、「話をまとめること」ではなく、「自らの目標や目的を実現すること」です。ミッションを設けることで交渉のイメージがつきやすくなり、首尾一貫した交渉が可能になります。あらかじめ次のような形でミッションを整理して折に触れて振り返るとよいです。

「Aというミッションを達成するために、BとCについて交渉する」

例えば「(A)新製品の大手企業との取引実績を早期につくるために(B)電機メーカーX社と(C)売買契約について交渉する」といった具合です。

3.協議事項を整理する
ミッションが決まったら次に協議事項を整理します。

① 協議事項を抽出して分類する
企業間の取引において、自社にとっての利益は通常1つではありません。価格以外にも、実現する便益、納期、支払条件、品質保証、その他付帯サービスなど様々です。こうした複数の利益(協議事項になる)を漏れなく抽出して整理するということです。
② 利益の優先順位を考える
①に基づいて複数の利益の優先順位を付けます。合わせて「自社にとってはそれほど価値がないが相手にとっては価値があるものはないか」を整理しておくと後の交渉で役に立ちます。
③ 話し合うべき順序を考える 
協議は「重要だがすぐには合意できそうにないこと」からではなく、「合意しやすいこと」から始めるのが望ましいです。合意しやすい事項から始めると、相手との関係性も構築しやすくなり、さらにその過程で相手のニーズや事情を入手することができます。

次回は、「目標の設定」「創造的選択肢の列挙」「BATNAの設定」について取り上げます。

NPO法人中野中小企業診断士会 三枝 元