-第133回-
部下の「認めて欲しい」という欲求を満たす(2)
- 従業員のモチベーションを上げるために最も重要なもの -
前回、モチベーションに影響を与えるものは「承認欲求(自分を認めて欲しいという欲求)を満たすこと」だという点について触れました。今回は承認欲求に基づいたモチベーション・マネジメントの具体例を見ていきます。
1.承認欲求に基づいたマネジメント
管理者は社員の承認欲求を日頃から満たすことが重要です。もともと公正でかつ納得性の高い賃金など無理な話で、かつ社員側も「賃金=自分への評価」と捉えてしまうことがややこしさの原因ですから、評価と賃金は分けて考え、それを社員にもある程度納得してもらう必要があります。
「よくやっている」「この間の仕事はよかったね」などと声をかけて承認欲求を満たしてあげるほうが、社員が望むように賃金を上げるより遥かに安上がりでかつ現実的です。
ちなみに承認のしかたには、表の承認と裏の承認があります。表の承認の例としては、会社(上司)による昇進制度や昇給制度があります。裏の承認には、表彰制度や同僚などによる評価・評判、顧客などの取引先からの日頃の評価・感謝、社外での研究会での評価などがあります。
表の承認については、そもそも昇進や昇給の機会が限られていること、さらにともすればエゴ型やる気(自尊心に基づいたやる気)を促しかねず、同僚との競争心をいたずらに煽ってしまう(協調性が失われる)という問題があります。よって表の承認に囚われると、競争に終始し、本人自身の成長に目を向けさせることができなくなる可能性があります。
2.裏の承認を促すためには
裏の承認を促すためには、個人を表に出す文化づくりが求められます。そのためには次のような方法があります。
<個人の業績と一緒に名前を表に出す>
担当スタッフの名前を顧客に知ってもらいパフォーマンスを認めてもらうことでやる気や責任感を高めます。
たとえば日本酒のラベルに杜氏の名前と顔写真を記載する、洋服にデザイナーの名前を冠する、署名入りの記事にするといったことがあります。
京都府の工作機械メーカー(長島精工)では、工作機械の組立を丸ごと1人の組立者に任せ、出荷時に組立者のネームプレートを貼るという取り組みを行っています。この取り組み以来、品質は格段に上がり、辞める若手社員も皆無になったといいます。
<仕事のプロセスを公開する>
働く者にとってのハレの場を提供することでモチベーションアップを図ります。たとえば熟練技能を要する場面を公開することで、張り合いを感じてもらうのです。職人の技をテレビ番組やインターネット、店頭などで公開しているケースは多く見られます。
<ほめ合う文化をつくる>
典型的な例は、社内での表彰です。また各自に感謝カード(サンクスカード)を渡しておき、他の社員が自分に協力してくれたり優れたパフォーマンスを示してくれたりした折に、それを渡すといった取り組みが多く見られます。
ただし何も些細なことまでいちいち褒めるわけではありません。無理に褒められても気持ち悪がられたり、何かねらいがあるのではと勘ぐられたりするだけです。ただ部下に評価できる部分があるのなら、なにかの折にフィードバックしてあげたり、自分が本当に感謝しているのなら、そのことを伝えてあげたりしてほしいのです。「自分だったら嬉しいことをしてあげる」「あくまで自然な感情として振舞う」ことがポイントです。
NPO法人中野中小企業診断士会 三枝 元