-第129回-
経営理念再考(2)
-真善美の観点から¬-

前回は、「マトリックス」という映画を紹介し、会社としても、自由と規律をバランスさせるような経営理念が必要ではないかということをお伝えしました。
「マトリックス」の中のシーンをご紹介したように、人間は「狭い潜水艦の中でまずいものを食べているよりも、夢のなかであっても、うまいジューシーなビフテキを食べたい」という生き物なのです。人間は弱いものです。また、日本人の正社員の積極的関わり方は低く、帰属意識についても受け身で消極的である報告があることもご紹介しました。
従業員が積極的に自由な発想をもち働いてもらいながらも、一定の規律を持たせる経営理念が必要なのです。なぜなら、変化が激しいためシステムの変化にルールが追い付かないといった問題が発生しています。明文化された法律だけで判断を行うことは大きく倫理を踏み外す恐れがあり、会社の存続危機を招く可能性があるのです。
このことは、DeNAの事件(調べてみてください)からも理解されるのではないでしょうか?「永久ベンチャー」とは成長して大企業病に陥らないようスピード感を重視し、ベンチャー精神を持ち続けようというDeNAの社是です。事件の調査委員会の報告書は、このベンチャー精神を高く評価しながらも、それは企業としての成熟や、リスク管理と絶えざる内部検証についての先人の蓄積をないがしろにする免罪符にはならず、それらと両立され得ることを説いています。前回ご紹介した丸山真男氏の「自分は自由であると信じている人間はかえって、不断に自分の思考や行動を点検したり吟味したりすることを怠りがちになるために、自分自身の中に巣くう偏見から最も自由でない。」に該当しているものと思えてなりません。また、個に簡単な行動規範を与えておくだけで、全体が一定の秩序立った挙動をしめすという現象は、人工生命などのコンピュータ・シュミレーションで観察されますが、「永久ベンチャー」という行動規範が、会社全体の秩序を形成してしまったのかもしれませんね。

真善美とは、人間にとって理想であり普遍的な価値をもつ「真(真理)」「善(善い行い)」「美」を表現しています。時代の節目にあると考えられる現在、真善美に基づいた経営理念の再考が必要かもしれません。以下に、それぞれについて経営理念を再考する際のヒントを簡単に纏めました。
・真(truth)とは真理を指します。物事の普遍的で正しい筋道です。
科学性に裏付けされたもの、論理的整合性はあるのか? 
・善(goodness)とは善行を指します。道義にかなった好ましい行いです。
人間性・社会性はあるのか? 社員を含めた企業構成員全体のしあわせにつながっているのか?経営者の都合だけはなく、社会や環境と共生できるものか。人間愛、正義心、誠実、道理があるのか。そこには法律に抵触しなければ良いという考えはありません。自分達の良心や徳に向かう心が判断の指標です。
・美とは文字通り「美しいこと」です。「美」の重要な点は「それを美しいと感じられる心」がなければ美しいと思えない点です。物事の本質にある「美」を感じた時、人は感動して心が潤います。それは心に響く、簡潔で美しい言葉で綴られた文章か?
経営理念とは、『この会社は何の為に存在しているのか、この経営をどういう目的で、またどのようなやり方で行っていくのか、という点についてしっかりした基本の考え方』を持つ事ですので、経営者は自分と向き合うとともに従業員を巻き込んでは真善美の観点から経営理念を作ることも考えられたらいかがでしょう。

NPO法人中野中小企業診断士会 堀川 一