-第101回-
顧客にとってのバリューを考えるためのヒント
- オリジナルな価値の提供が成功のカギ ―
これから新しい事業や新製品・新サービスを展開したいという場合に、まず何を考えるでしょうか。
おそらく多くの方が、「こんな事業だったら当たるだろう」「こんな製品やサービスを提供したい」という自分の想いが最初にあるはずです。このこと自体は間違ったことではありません。
ただし、自分の想いだけではビジネスとして成功するわけではないことも事実です。自社の事業や製品・サービスが、「顧客にとってどのような価値があるのか」「どのような価値を提供するのか」を考えなければなりません。そこで今回は、顧客価値を発見するためのフレームワークをご紹介します。
1.顧客はモノが欲しいのではなく抱えている問題を解決したい
顧客はなぜモノやサービスを買うのでしょうか?それはモノやサービス自体が欲しいからではなく、何らかの便益やソリューション(問題の解決)を得たいからです。
たとえばみなさんが掃除機を買うのは、掃除機が欲しいからではなく、部屋を清潔に保ちたいからです。この場合、「部屋が清潔ではない」という問題を抱えていることになります。また、部屋が清潔に保てるための手段が他にあるのならば、別に掃除機でなくても構わないということにもなります。仮にゴミやホコリがでない(勝手に掃除してくれる)床材があれば、掃除機は不要になります。
マーケティング論の始祖ともいうべき故セオドア・レビット(元ハーバード・ビジネススクール名誉教授)の有名な言葉で、「ドリルを買いに来た人が欲しいのはドリルではなく穴である」というものがあります。「顧客にとっての価値」というものの重要性を端的に示すもので、事業者にとっては常に念頭に置かなければならない言葉です。
2.顧客価値の基本式
しかしながら、顧客価値が重要だといっても何か考えるためのツールがなければ自分で考えることはなかなか難しいでしょう。そこで今回は、「顧客価値を考えるためのツール」を提供したいと思います。
顧客価値には基本式があります。「顧客価値=ベネフィット(顧客にとっての何らかの利益・便益)÷コスト」です。よって、顧客価値を上げるためには、「分子のベネフィットを上げる」か「分母のコストを下げる」というのが基本的な考え方になります。
分子のベネフィットには、大きく「理性面でのベネフィット」と「感性面でのベネフィット」があります。機能(性能・スペック)的価値が理性面でのベネフィットにあたり、情緒的価値(商品を使ってみて感じる価値)や、自己実現価値(自分のパーソナリティを表現してくれる価値)は、感性面でのベネフィットになります。
たとえばビジネス用のかばんを考えると、「どれくらいの容量があるか」「ポケットはどれくらいあるか」「重量はどれくらいか」といったことは機能的価値、「デザインやスタイリング」が情緒的価値、「エコ志向」「ブランドイメージ」「ラグジュアリー感」が自己実現価値になります。
顧客にとっての価値というと、機能的な価値を考えがちです。しかしながら、機能的価値で差別化することは容易なことではありません。他の価値にも視野を広げて「顧客にとっての価値」を考える必要があります。
言い換えれば、「機能的な価値」は必要最低限レベルを満たし、他の部分で差別化することができれば、それは大きな「顧客にとっての価値」になるということです。
次回は、もう1つの顧客価値に要素であるコストについてお知らせします。
NPO法人中野中小企業診断士会 三枝元