-第231回-
採用が難しい企業は応募者数よりも定着率にこだわる
~RJPでミスマッチを防ぐ~②

前回、せっかく雇った人材の早期離職を防ぐためには、現実を踏まえた仕事の様を、その仕事の良いところも、大変なところも、入社前で仕事につく前から、できる限り正確に応募者に伝えること(RJP:Realistic Job Preview)が重要であるとご説明しました。今回は、RJPの効果を具体的に見ていきます。

1.相性がよい人材を雇う

応募者に対して、RJPに沿って仕事の良い面悪い面ともにありのままに見せることで、次のような効果が期待できます。

<ワクチン効果>
まず過剰期待を事前に緩和し入社後の幻滅感を和らげる効果があります。これは期待のワクチン化と呼ばれます。人生あるいはキャリアの節目ではいつも、新たな段階に入る前の期待の水準が、その後の適応のあり方に大きな影響を与えます。不安ばかり大きいのも問題ですが、あまりにバラ色の始まりを期待するのも考えものです。

<スクリーニング効果>
自己選択、自己決定を導く効果です。応募を考えている人は、仕事のありのままの姿を知って実際に応募するかどうか自己決定します。採用する側としては、勘違いして応募・入社してくる人をふるいにかけてくれることになります。

<役割明確化効果>
入社する前に入社後の自分の役割や期待されていることをより明確かつ現実的なものにする効果です。RJPでは、入社後に就く仕事の実際の仕事の姿をリアルに描くことを重視しているので、いいイメージだけで浮かれて入った人に比べると、自分に期待されている役割についてもより明瞭な認識を抱いているはずです。覚悟ができており、現実的で、役割や意識も明瞭になっている分だけ、初期の業績向上につながっていきやすいでしょう。

<コミットメント効果>
入った組織への愛着や一体化の度合いを高める効果です。「大変なことはわかった。それでも挑戦したい」と自己選択する人のほうが、仕事への達成意欲や組織へのコミットメントが高いと考えられます。

あまり労働条件が良くない職場でも、生き生きと活躍している人はいます。きっと、仕事との相性が良いのでしょう。人材の確保というと、どうしても今いる人材の満足度の向上ばかりに焦点が当たりがちですが、もっと「辞めない(相性が良い)人材を雇う」という姿勢を重視すべきではないでしょうか。

2.納得ずくで入社してもらう

RJPの典型的な例として、1900年頃、ロンドンの新聞で掲載された南極探検隊員の募集広告を取り上げてみましょう。

「南極探検隊員の募集:求む男子。至難の旅。僅かな報酬。極寒。暗黒の日々。絶えざる危険。生還の保障はない。成功の暁には名誉と賞賛を得る。」

これが単に探検の興奮や感動だけをアピールするものであれば、それにつられて応募した人は、現実の南極での厳しい生活に大きなリアリティ・ショックを感じたに違いないでしょう。

自社の良いところばかりを強調して無理に入社してもらうよりも、実際の状況を正直に開示して納得してもらって入社してもらったほうがはるかに有効であることはぜひ意識して頂きたいところです。

NPO法人中野中小企業診断士会 三枝元