-第216回-
消費者が求めるものを考える(1)
-時代の変遷を通して消費者の求めるのもの変化を知る-

戦後、日本は産業社会(工業社会)を経て、情報社会へと至っております。このコラムの前編では産業社会と情報社会で消費者がどのようなものを求めているのかについて考えたいと思います。

戦後から1990年代ごろまでの産業社会と呼ばれる時代は、モノが「ない」時代でした。モノがない時代においては作れば売れました。このため、吉野家の「うまい、はやい、やすい」の代表されるように「良い」モノを「早く」「安く」作ることが、消費者に差別化を図る要因でした。

しかし、1980年代ごろから日常生活においてモノが充足するようになりました。例えば車・テレビ・洗濯機・冷蔵庫といった産業社会において所有することがステータスとされていたモノはどこの家庭でも普通に所有されるモノとなりました。
企業は「良い」モノを「早く」「安く」作る努力をしてきましたが、質のいいものをコストダウンをはかりながら生み出していくことは限界に達し、これまでと同じような形で差別化を図るのが難しくなってきました。

一方、1990年代、消費者はこれまでテレビや雑誌など限られたコンテンツでしか情報を得ることができませんでしたが、インターネットの到来により様々な情報や価値観に触れるようになりました。情報社会の到来です。

この産業社会から情報社会へと世の中がシフトする中で消費者の行動に変容が生まれます。産業社会では消費者はモノそのもの、あるいはよりいい質やいい機能に対してお金を払ってきました。
しかし、情報社会では良いモノが身の回りに充足していることに加え、様々な情報に触れることで機会が増えたことで「自身の人生を豊か」にしたり「驚きや感動を与えてくれる」ものに対してお金を払うようになりました。
例えば「スターバックスコーヒー」や「iPhone」のように機能ではなくその商品が提供する世界観に対してお金を払うようになりました。近年の「推し活」も「自身の人生を豊か」にするものに対してお金を払う例と言えるでしょう。

このような消費者の行動が変容する中において「驚きや感動を与える」ためにはどのような発想が必要でしょうか?後編ではその例として「アート思考」を紹介します。

NPO法人中野中小企業診断士会 伊藤敬久(いとうたかひさ)