-第196回-
DX化で差をつけよう(1)
-IT化とDX化の違い-

「IT活用をしよう」、「IT化をしよう」と叫ばれて久しいですが、この数年「DX」という言葉をよく耳にするようになりました。「DX化」とは「IT化」と似たような話なのだろうとなんとなく認識をしているものの、その違いについて正しく把握をされている方も少ないのではないかと思います。そこで今回は「IT化」と「DX化」の事例をご紹介しながらその違いについて説明したいと思います。

IT化の例として飲食店の会計業務を取り上げます。IT化を行う前の業務は以下の流れとなります。
①連携機能のないレジスターで会計を行う。②一日の売上を帳簿に記入する。③帳簿の情報をもとに確定申告書を作成する。④確定申告書を税務署に提出する。
この業務をIT化すると以下のような流れとなります。
①POSレジで会計を行う。②POSレジから会計ソフトに売上情報を自動で連係する。(仕入れについてもクレジットカードで購入しその履歴を会計ソフトに連携する。)③会計ソフト上で確定申告書を作成する。④e-taxで送信する。

IT化を行う前は売上情報などを伝票・レシートから何度も転記する必要がありました。また、税務署の開いている時間に確定申告書の提出を行う必要がありました。これがIT化により売上情報の転記がなくなることで、事務作業が削減されます。また、e-Taxの利用により時間を気にせず提出ができるようになりました。
このようにIT化とは、「デジタルツールを活用して業務作業の効率化を図ること」を指します。

対して「DX化」とはどのようなことでしょうか? 2019年に経済産業省がまとめた「DX推進指標とそのガイダンス」では、「DXは、本来、データやデジタル技術を使って、顧客視点で新たな価値を創出していくことである、そのために、ビジネスモデルや企業文化などの変革が求められる。」と述べられております。

よくDX化の話をするとき「AIを使って何かできないか?」という発想になりがちですが、AIは手段です。DX化は次のステップにて実施します。①自身のビジョンを整理し、実現したい未来をしっかり描く。②現状と目指す姿の差から課題を整理する。③デジタル技術を活用して、ビジネスモデルや企業文化の変化を組織的に取り組む。

とはいえ、少し難しい話ですね。今回はその先にある「顧客視点で新たな価値を創出していくこと」についてお話をしたいと思います。「顧客視点で新たな価値を創出」する、とはつまり「既存の顧客ではない新たな顧客に対して商品・サービスを提供すること」を指します。IT化では業務の効率化はできましたが、新規顧客の獲得はできませんでした。それがDX化では新規顧客の獲得ができるというのですが、どういうことでしょうか? 次回はDXで新規顧客を獲得する事例についてお話をさせていただきたいと思います。

NPO法人中野中小企業診断士会 伊藤敬久(いとうたかひさ)