-第209回-
創業期に押さえておきたい「ヒト」と「カネ」の話(2)
-漠然とした不安は言語化・見える化しよう!-

前回は、創業期の不安のひとつとして、経営資源「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」のうちの「ヒト」についての話をしました。今回は「カネ」の不安について考えてみましょう。数字に苦手意識を持っていて「カネ」に対する不安を抱えている人は少なくないでしょう。正確さや細部にこだわりすぎると、数字に対する苦手意識がますます大きくなって、不安が膨らんでしまいます。

そこでまずは「カネ」の大きな流れ、全体像を把握しましょう。これから創業する人はその事業のことをイメージしてみてください。すでに創業している人は実際の数字(ひと月のおおよその金額)を書き出してみてください。まずは「➀売上」です。売上は「客数×客単価」で表されます。客数はリピート客も含まれるので、お客様ののべ人数で表されます。客単価は販売する商品・サービスの値段です。ひと月の売上を書き出してみてください。その売上の根拠(客数×客単価)も書いておいてください。次に「➁変動費」です。変動費とは、売上に比例して増減する経費です。商品を仕入れて販売するビジネスモデルであれば主に仕入にかかった費用が変動費です。製造業なら主に材料費、運送業なら主にガソリン代や高速料金などが考えられます。みなさんのビジネスモデルで変動費を書き出してみてください。次に固定費です。固定費とは、売上に関係なく、一定の期間で常に発生する経費です。例えば、人件費や家賃、光熱費や通信費などがあります。この固定費を「➂人件費」と「④その他固定費」に分けます。みなさんのビジネスモデルで人件費とその他固定費を書き出してみてください。個人事業主の場合、人件費をあいまいにする人が少なくないのですが、自分自身に対して支払う報酬を決めておくことをオススメします(税務上の処理とは異なりますが、事業の「カネ」の流れを把握するために、ここでは個人の報酬も人件費として考えてみましょう)。そして「➀売上」から「➁変動費」「➂人件費」「④その他固定費」を差し引いたものが「⑤利益」です。この利益から税金の支払い、借入金の返済、将来の投資のための貯蓄などに充てます。事業を行ううえでこの5つを把握して、「カネ」の大きな流れ、全体像を把握しましょう。利益が思ったよりも少ない場合は、書き出した「➁変動費」「➂人件費」「④その他固定費」で削減できるところはないか、「➀売上」を上げるために客数を増やすためにはどうするか、客単価を増やすためにはどうするかを考えます。

人間が一番怖いものは得体の知れないものです。得体が知れないと、どこから手をつけて良いのか分からず、恐怖や不安を感じるものです。得体が知れていると、対処方法を考える方向性が見つかります。創業期はいろんな不安がありますが、不安を漠然と捉えるのではなく、言語化、見える化して、得体を知るところから始めてみましょう。

NPO法人中野中小企業診断士会 梅津勝明