-第188回-
円滑な事業承継に役立つアサーティブ・コミュ二ケーション(1)
-前半:アサーティブな表現と事業承継-

「もっとよく話をしておけばよかった。事業承継って、本当に時間がかかるのですね」
 ある社長のつぶやきです。自ら創業した事業の後継者として、子どもの一人を候補者として考えるようになって10年、そろそろ事業承継を具体的に進めようと本人に話をしたところ、「引き継ぐのは難しい」と予想外の答えが返ってきたのです。
 「いつ、だれに、どのように」事業を引き継ぐのか。いつかは決めなくてはと思いながら、日々忙しい経営者の方にとって、つい後回しになってしまう傾向があると言われます。重要度は高いけれど、緊急性は高くないと思われがちな事業承継。円滑に進めるために、「アサーティブ・コミュニケーション」の考え方からヒントを探って見ましょう。
 アサーティブ・コミュニケーションとは、「自分も相手も大事にする自己表現法」です。もともと1950年代にアメリカで行動療法の手法として生まれ、人権運動の中で広がりました。その後、日本でも紹介され、現在では教育やビジネスのシーンでアサーションが注目されています。
 アサーションの考え方では、自己表現のタイプは大きく3つに分かれます。「非主張型」「攻撃型」「アサーティブ」の3タイプです。人によって傾向があり、また同じ人でも場面や相手によって表現のタイプが変わることがあります。では、それぞれの特徴を見ていきましょう。
(1)非主張型(ノンアサーティブ):自分よりも他者を優先して、相手に合わせようとする表現タイプ。自信がなくて自分の意見を率直に言えない、あるいは、言ったとしても曖昧な表現で理解されづらいといった特徴があります。卑屈になったり、言い訳をしたりします。自分を抑えすぎると、不満が一気に爆発することがあります。
(2)攻撃型(アグレッシブ):自分のことを第一に考え、一方的に自分の意見を押し通そうとします。他者を軽んじて、自分が優位に立とうとします。支配的、命令的な口調で、時には大声で怒鳴ったりします。一時的に意見が通ったように見えても、周りから「自分勝手な人」と思われ、敬遠される恐れがあります。
(3)アサーティブ:自分の気持ちや考えを大切にすると同時に、他者への配慮も忘れない自己表現です。自分の思いを素直にとらえ、正直に率直に相手に伝えようとします。意見が合わない場合でも、相手に歩み寄りお互いが納得する結論を目指そうとします。安定した気持ちのよい人間関係を築くことができます。
 さて、皆さんはどの表現のタイプの傾向がより強いでしょうか。
 「だからお前はダメなんだ」「そんなことは無理に決まっている」経営者が後継ぎ候補のわが子や従業員に対し攻撃的な自己表現をすれば、後継者のやる気をなくしてしまいます。一方、後継者候補に「どうせ言っても無駄だろう」「やっぱり自分はダメだ」といった非主張型の自己表現のくせがつくと、自己を発揮する機会を逸することにつながります。どちらも、とてももったいないことです。
 そこで、アサーティブな自己表現をするためのコツを、次回のコラムでご紹介します。

NPO法人中野中小企業診断士会 井田優里