-第186回-
Withコロナ時代における人材育成の進め方(1)
- 環境の変化、働き方の変化に対応した人材育成を考える -
経営者の誰もが、人材育成の重要性を認識しているはずですが、日々の業務に追われ、後回しにしてしまっている現実はないでしょうか。また、「育成体系などなくても、人材育成はできる」と考えている経営者も多いと思います。しかし、求める人材像を明確にし、それを実現するための育成体系を構築したうえで、人材育成を進めることは、人材の採用・定着にも有効です。新型コロナウイルス感染の影響により、事業環境や働き方が大きく変化している中で、人材育成の重要性が高まっています。
1.コロナ禍における人材育成
以前から、先の見えない「不確実性の時代」と呼ばれていましたが、コロナ禍において、その傾向が強まっています。環境の変化に対応した新たなビジネスを創出する柔軟な発想をできる人材が求められています。また、在宅勤務、テレワークが広がったことにより、従来型のOJTや研修が機能しなくなりつつあります。
2.人材育成を体系化する必要性
企業経営には「ヒト」「モノ」「カネ」といった経営資源があり、これらを活用することで利益を生み出しています。「モノ」「カネ」は、ヒトが活用することによって資源となることから、「ヒト」つまり人材が経営資源の中核に位置します。そのため、企業としてのビジョンや戦略を実現するためには、人材採用、人材育成、配置・異動、評価・処遇といった一連の人材マネジメントを体系化することが重要となります。人材育成の目的は、単に個人の成長だけではなく、経営戦略の遂行に必要な人材を養成することです。
3.人材育成の体系化のプロセス
第一に、企業の求める人材像を、職務能力・スキルに留まらず、経営ビジョンの実現に向けた態度・行動を含めて、定義します。第二に、求める人材像に沿った各階層、各職種に必要なスキルを一覧にして見える化します。最後に、必要なスキルを習得する方法をOJT、研修などの育成計画に落とし込みます。経営ビジョンに基づく長期的な視点とともに、現場のヒアリングの基づき検討していきます。
<人を育てる意識を醸成するために体系化したA社>
金属製品製造業を営むA社は、機械化が進んだことで技術承継の意識が薄れていると感じていました。間接部門の教育、経営幹部の養成にも課題を抱えていました。そこで、求める人材像を整理したうえで、入社から幹部職までの育成体系を職種ごとに作成しました。体系に沿った職種ごとの研修、職種を跨いだ選抜研修や、定期的なジョブ・ローテーションを実施することで「人を育てる意識」の醸成を進めています。
次回は「育成体系に基づいた具体的な育成手法」についてお知らせします。
NPO法人中野中小企業診断士会 小林久人