-第144回-
創業は大きく考え小さくスタートする(1)
-ベンチャー企業のセオリーであるリーン・スタートアップという考え方-

 創業にリスクはつきものです。最初に準備資金をかけたのはいいものの、事業が想定どおりにいかず、失敗して元手を回収できないばかりか、大きな負債を背負ってしまうことも考えられます。今回は、2回に分けて、創業時の資金のかけ方についてご紹介します。

<ケース>
 Aさんは、高級飲食店の料理人として勤務しながら、いつかは自分の料理店を持ちたいと考えていた。店のコンセプトは、「気軽に高級料理店の味を味わえる大衆食堂」であり、日頃から温めていた創作料理を中心に提供する。テイクアウトサービスもいいだろう。
自分の腕があれば必ず成功するはずだと、Aさんは独立を決意した。これまで貯めた貯金と公的融資で開業資金を準備した。幸い地元でスペースが広い空き店舗があり、そこに出店場所は決めた。現在、内外装工事業中である。これはAさんもこだわりがある。現在、アシスタントやホールのスタッフはどうしようかと思案中である。

1.大きく考え小さくスタートする

GAFAの華麗な成功例がある一方で、数多くのベンチャー企業の倒産があります。ソフトウエア企業の上場率は1%程度で、WEB関連だとそれ以下だと言われます。ハイテク系のベンチャー企業にかかわらず、創業には大きなリスクが伴います。
8つのベンチャー企業のスタートアップに参加し、そのうち4つを株式公開に導いたスティーブ・ブランク氏は、スタートアップ企業に求められる4つのステップを提唱しています。

① 顧客発見(聴いて発見)
② 顧客実証(売って検証)
③ 顧客開拓(リーチを検証)
④ 組織構築(本格拡大)
※ただし、②でダメならピボットで①に戻る。

 これは、「大きく考え小さくスタートする」ということに他なりません。すなわち、将来のビジョンは大きく描くが、事業は最初は小さく始めて検証しながら、反応が良ければ段階的に拡大していくということです。

2.まずは、「すぐに試す」ことが重要

この考え方を、エリック・リース氏がリーン・スタートアップとして発展させます。
スタートアップ企業は、世の中を変えてやろうという大きな野心を持って起業します。そして、それゆえに商品リリースまでに入念な準備を時間をかけて行いがちです。彼はこれこそが誤りなのだと断じています。
それは事前にいくら入念にリサーチしたり分析したりしても、実際にあたるかわからないからです。リースは、トヨタ自動車の「ムダを省く(リーン)」という思想をスタートアップ企業に持ち込みました。
具体的には、実用に足る最小限の製品を素早く開発し、それをテストマーケティングして試して検証します。「新製品・新サービスの簡易版を素早く開発する」「テスト販売して反応を確かめる」「修正・改良すべき点を反応から学ぶ」のサイクルを高速で回転させるのです。

次回は、リーン・スタートアップの、一般の創業への応用例をご説明します。

NPO法人中野中小企業診断士会 三枝元