-第111回-
顧客ニーズは「聞く」のではなく「観察する」
- フィールドワークからヒット商品が生まれる ―
前回触れたように、高付加価値で競争力のある製品やサービスの開発にあたっては、まだ他社が手がけていないような顧客の潜在的なニーズ(真のニーズ・学習されるニーズ)に注目する必要があります。顧客アンケートで収集できるニーズは、確かに現在の製品・サービスの改良・改善には重要ですが、ありきたりな意見にとどまるので、高付加価値の製品・サービスにはつながりにくいのです。
今回は、顧客の潜在的なニーズに気がつくための方法についてご紹介します。
1.フィールドワークで開発のヒントを探る
文化人類学では、あるコミュニティの生活や価値観などを調査する際には、研究者が実際にそのコミュニティに入り込んで研究することが一般的です。このような調査のことをエスノグラフィー調査といいます。
この調査方法を新製品や新サービスの開発に活かすことがさかんに行われています。マーケティングリサーチにおけるエスノグラフィー調査では、対象者の自宅や活動の現場に出向いて、インタビューと観察によって生活者の価値観や購買動機、製品やサービスの使用方法などを観察します。
たとえばあまり広くないアパートで子供がいる家庭向けに新しい家具を開発しようとしているとしたら、実際に開発者がそのような家庭に訪問して、生活状況や家具の使われ方、その家庭独自の工夫などを観察し、「こういう機能があれば便利なのではないか」「この機能は不要だな」といった開発にあたってのヒントを収集するのです。
日本におけるエスノグラフィー調査の例として有名なのが花王です。同社は「人々はエイジング(加齢)をどのようにとらえているのか」「なぜアンチエイジングに熱心に取り組むのか」について、5人の属性が異なる対象者の生活現場に密着して調査した結果、「アンチエイジングは改めて自身のアイデンティティーを更新する過程である」ことを明らかにし、その後の商品開発やマーケティングのヒントとしたそうです。
2.ユーザーの体験を整理する
ユーザーは製品やサービスの使用にあたり、様々なことを体験をします。体験の流れを整理するためのポイントとして、5E モデルというものがあります。レンタル会議室の予約アプリを例に考えてみます。
① 導入(entice)
何かをやりたい、欲しいと思ったときのユーザーの行動を整理する。
例)希望する場所、時間帯、スペースなどに応じた空き会議室の状況の検索。
② 直前(entry)
「導入」と次の「体験中」の間にあるつなぎ目を整理する。
例)予約直前の通知や行き方表示。
③ 体験中(engagement)
使用することでどのような体験ができて、ユーザーに対してどのような価値を提供できているかを整理する。
例)会議室の使い勝手や検索サイトの使い勝手など。
④ 直後(exit)
体験から通常の生活へと、スムースに橋渡しができているかどうかを整理する。
例)利用明細の通知や、忘れ物の連絡など。
⑤ 体験後のつながり(extension)
体験後に不足していたことをフォローできているかどうか、次につながる仕組みがあるかなどを検討する。
例)利用履歴の閲覧や次回使えるクーポンの提供。
ユーザーはこの体験のプロセスのどこかに問題を抱えていますが、それにまだ気がついてない可能性があります。「この製品(サービス)はこういうものだから」と今の使い勝手が当たり前だと考えているからです。開発者側がそのような潜在的なニーズに気づき、それを解消できるような仕組みを提供できれば、ユーザーにとっては大きな価値になるでしょう。
【参考文献】
恩蔵直人『マーケティングに強くなる』筑摩書房
岩嵜博論『機会発見』英治出版
NPO法人中野中小企業診断士会 三枝元