-第105回-
生産性を上げるために本当に必要なこと
- 効率を上げるための基本的な考え方 -
「働き方改革」ということで企業の生産性向上が話題になることが多くなりました。企業にとって生産性向上は永遠の課題です。しかしながら、メディアでの報道や巷での議論を聞いているとピント外れに思えることも少なくありません。
「働き方改革のための社内会議で時間を費やされ、自分の仕事がはかどらず、生産性が落ちた」などという笑えない話もあるくらいです。
そこで今回は正しい生産性向上のあり方について取り上げたいと思います。
1.生産性とは何か?
まず「生産性」とは一体何でしょうか?巷での議論を聞いていると、どうも漠然としたイメージ先行の感が拭えません。ここではっきりと定義しておきましょう。生産とは「何らかのインプットから何らかのアウトプットを生み出すこと」ですから、生産性は次の式で表すことができます。
生産性=アウトプット(成果物)÷インプット(投入資源)
置かれている状況や立場によって、アウトプットやインプットは様々です。アウトプットは、企業レベルであれば一般的には売上や利益があたるでしょう。職場によっては、一定期間内で仕上げた製品、処理した業務量といったものがあたります。会議でいえば、何らかの意思決定ということになるでしょう。
一方、インプットは投入資源ですから、「ヒト、モノ、カネ」が該当します。「ヒト」は「どれくらいの人員を投入したか」、「モノ」は「どれくらい機械 や材料を投入したか」、「カネ」は「どれくらいのお金を投入したか」で判断します。さらにこの3つに加え、「時間あるいは手間(どれくらいの時間や手間を投入したか)もインプットの対象となります。
2.インプットを下げることに終始していないか?
さて生産性の式からいえることは、分子の「アウトプットを上げる」か、分母の「インプットを下げる」かすれば、生産性は上がるということです。
たとえばみさなんが営業部門の責任者だとしたら、生産性の向上のために何をするべきでしょうか。優先すべきは、分子のアウトプット(売上や利益)を上げることです。分母のインプットが一定でも、あるいは多少上がっても、分子のアウトプットが大きく上がれば生産性は上がるのです。
巷での生産性の議論の多くは、「いかにインプットを下げるか」に終始しているように感じます。まるでアウトプットは上げられない(あるいは下がる)ことを前提としているかのようです。本来、企業にとって大事なことは、アウトプットを上げることであり、インプットを下げることではない(売上や利益を上げることで、コストを下げることではない)ことに留意し、アウトプットを上げることも是非考えていただきたいところです。
日本の製造業で見られがちな例を挙げてみます。バブル経済崩壊以降、日本メーカーはリストラクチャリングと称し、業務のスリム化や研究開発投資の削減や抑制を行う傾向にありました。中には妥当なものもありますが、将来の成長のための投資を削ってしまったことが、今日の日本の製造業の衰退を招いたとの指摘もあります。
ちなみに2006年から2015年の各国の研究開発費の推移を見ると、次のようになります(出典:経済産業省)。
・米国の研究開発費は、2015年は約5,029億ドルで、2006年の約1.4倍に伸びている。
・中国の研究開発費が大きく伸びており、2006年の約1056ドルから2015年には4,088億ドルと、約3.9倍の伸びを見せている。
・日本の研究開発費の総額は、2007年度には19兆円近くまで達したが、リーマンショック後に減少。その後は横ばいからやや上昇傾向で推移したものの、2015年度以降は微減。日本は2009年に中国に抜かれ、世界第3位となっている。
同時期にインプットを上げつつも、それ以上にアウトプットを上げた企業として、コマツを上げることができます。同社は建設機械におけるIoT化(モノのインターネット)にいちはやく取り組みました。単なるモノの販売では新興国メーカーとの価格競争になることが必至であり、積極的にIoT化を進めた結果、収益をそれ以上に拡大した例です。
ここまで「インプットを上げつつも、それ以上にアウトプットを上げる」ことを中心に話を進めましたが、もちろん無駄なインプットは下げたいところです。そこで次回は、インプットを下げるための考え方についてお知らせします。
NPO法人中野中小企業診断士会 三枝元