-第227回-
従業員の定着について考える(2)
-そもそも人材の定着って絶対に良いことなの?-

 人が定着することは必ずしも良いことばかりではない。と言ったら、皆さんはどう思われるでしょうか?
 「いやいや、そんなはずはない」「人が定着する事が良いことに決まっている」そう思われるでしょうか?

それでは、人が定着する事のメリットを考えてみましょう。

【メリット】
①その人物が仕事で得た知識や経験が社内に蓄積し、活用されて会社が発展する
②社員を教育するコスト(手間・時間・研修費等)が無駄にならない
③新たな採用を行うためのコスト(求人広告出稿料・労力等)がかからない

 人が定着しない場合は、この反対のことが起こります。加えて、残る従業員の士気低下なども起こるかもしれません。

 「やはり、人が定着する事はよいことではないか」という声が聞こえてきそうです。しかし、そう思われた方に一旦立ち止まって考えていただきたいことがあります。

 上記の①のメリットは、ある条件が前提になっています。それは何なのか? 

 それは、定着する従業員が、「謙虚に学び、成長意欲のある人間であり、チャレンジ精神を失わず、自社以外でも高い評価を得られるビジネスパーソンである」ということです。
 しかし、残念ながら、そうではないケースも多々見られるのではないでしょうか。つまり、旧態依然とした仕事の知識や方法論に固執し、新しい学びやチャレンジはせず、長く居ることでムダに発言力があるにも関わらず、チャレンジしたくないが故に新たな事業や改善にはその影響力を駆使して異を唱えて潰す。    これは最悪の人材のパターンですが、程度の差こそあれ、このような状況に陥った「幹部社員」が10年、20年単位で会社に停滞をもたらすケースというのは、残念ながら少なくありません。

 社員の教育コストや求人出稿のコストばかりを重視して、「長く残ってくれそうな人がいい」という視点で採用を行ったり、社内の処遇を行ったりしていると、いつの間にか上記のような従業員ばかりの組織となるおそれがあります。

 もちろん、「謙虚に学び、成長意欲のある人間であり、チャレンジ精神を失わず、自社以外でも高い評価を得られるビジネスパーソン」に長くとどまってもらえることが最良ですが、そのような方々は有能で引く手あまたですから、中々に難しいです。貴社にとどまってもらうには良い待遇、働きやすい環境、経営者との強い信頼関係等の条件を満たす必要があります。
 しかし、それが常に可能であるというわけではないでしょう。

 であるならば、発想を転換して、良い人が仮に3〜5年で辞めてしまっても、そのような人が定期的に入社してくるサイクルを築き上げる、そのような会社にしていくという方法があります。
 実際に、そのような方々が自由に活躍できる風土や制度を作り、成長して卒業していく際には快く送り出し、また新たな有能な方又は有望な方を採用していくというサイクルで会社を上手く回している企業もあります。その体制を維持しながら、長期視点で良い人が長く定着する会社への変革を進めていくというのも発想としてはアリです。

 上記の「会社を停滞させるベテラン社員」に20年居座られるより、有能な方や意欲のある方がフルに能力を発揮して3〜5年働いてくれる方が会社は前に進んでいきます。また、良好な関係を築いて卒業していった有能な社員は、社員では無くなりますが自社の心強い外部パートナーとしてその後も協力関係を築いていくことが出来ます。
 さらに言うと、このような発想で人材活用を進めるならば、良い人材は3〜5年と言わず、もっと長い期間貴社で働いてくれる可能性は高まります。

 「人材採用力」を高めれば、このようなやり方も選択肢となり得るのです。

 固定観念に囚われず、柔軟な発想で採用に臨むことも現実に対応する経営者にとっては必要なのではないでしょうか?
NPO法人中野中小企業診断士会 早田 直弘