-第217回-
消費者が求めるものを考える(2)
-消費者に驚きと感動を与えるアート思考-

コラムの前編では産業社会(~1990年代)では消費者は、「早く」「安く」「良い」モノにお金を使うのに対し、情報社会(1990年代~)では「自身の人生を豊か」にしたり「驚きや感動を与えてくれる」モノに対してお金を払うようになったとお話をしました。
後編では「自身の人生を豊か」にしたり「驚きや感動を与えてくれる」モノを提供するための発想方法について考えたいと思います。

一般的な商品開発において、「顧客の声を聞く」ことは重要な活動です。2000年代前半、携帯電話市場では現在でいうところの「ガラケー」が主流でした。当時の携帯電話は各メーカーが顧客の声に耳を傾け、多種多様なボタンを取り付けた商品をこぞって開発しておりました。
しかしながら、2007年これまでのコンセプトと全く違う電話が登場しました。「iPhone」です。iPhoneにはほとんどボタンがついていません。発表された商品は消費者の声を「全く聞いておらず」、市場の反応も冷ややかでした。しかし、iPhoneをはじめとしたボタンのないスマートフォンが現在の携帯電話の主流となっていることについてはご存じのとおりです。

ここで重要なことは「顧客の声を聞く」ことではなく「自分の作りたいもの、自分があったらいいと思うもの」に向き合い、「夢中になって」商品やサービスの開発を行うことです。
特に近年では環境問題などの社会課題に対して解決を図る商品やサービスが消費者にとって「自身の人生を豊か」にしたり「驚きや感動を与えてくれる」ものとして受け入れられる傾向にあります。

このように「自らの心の声」に向き合い世の中に創出していく思考方法を「アート思考」と呼び、近年に注目されております。
これは、前編で述べた時代の変遷の他、分析手法やロジカルシンキングの世の中への浸透により論理的な発想方法では差別化を図るのが難しくなったことも背景として挙げられます。

アート思考は決して難しいものではありません。自分と向き合い、心から解決したいこと、成し遂げたいことに向き合ってみましょう。そして不格好だと思っても、形にして世の中に出してみましょう。万人には受けないものかもしれません。それでもその想いに共感し、「自身の人生を豊か」にしたり「驚きや感動を与えてくれる」モノとして受け取る消費者が必ず現れます。またそれはSNSなどを通して広がっていきます。

もし売り上げの伸び悩みや商品開発に悩んでいらっしゃいましたら、ぜひ一度アート思考で向き合ってみてはいかがでしょうか?

NPO法人中野中小企業診断士会 伊藤敬久(いとうたかひさ)