-第168回-
採用にあたって応募者のどこに着目すべきか?(1)
~ 後から伸ばしにくい能力に注目する ~
企業内で必要な人材を確保するには、採用と育成の2つの方法があります。最初から必要な能力を兼ね備えた人材を採用する必要はなく、採用後に社内での育成により、必要な能力を身に付けさせることもできます。しかしながら、能力には、後から身に付けられる能力と身に付けにくい能力があり、採用活動時に考慮する必要があります。
1.変わりにくい能力に着目する
能力には、「比較的簡単に変化する能力」「可変的だが変わりにくい能力」「非常に変わりにくい能力」の3つがあります。産業・組織心理学分野の研究者であり、コンサルタントでもあるブラッドフォードは、「簡単に変化する能力」は採用後に育成できるのだから採用段階において力点を置いて見る必要はなく、「非常に変わりにくい能力」については、採用段階でしっかり見ておかないと、後々どうしようもないと主張しています。
たとえば、口頭でのコミュニケーション能力は、日本企業の採用段階でかなり重点が置かれています。集団討議や個人面接の場でも口頭でのコミュニケーション能力の巧拙で面接官の印象が決まります。日本企業の実に80%以上が、口頭でのコミュニケーション能力を、自社の選考の際に重視してる基準として挙げています。
しかしながら、口頭でのコミュニケーション能力は、ある程度経験を積めば大いに改善することができます。よって、採用段階ではあまり注視する必要はありません。新入社員の頃は、おどおどしていて自信なさげであったのに、経験を積む過程でだんだんと自信を持って主張できるようになるというのは自然なことでしょう。
その一方で、IQに代表される知能、創造性、ものごとを概念的にとらえる概念的能力、またその人が持っているエネルギーの高さや、部下を鼓舞し、部下に対して仕事へのエネルギーを充填する能力などは、非常に変わりにくいとされます。よって、採用段階できちんと見ておく必要があります。
2.変わりやすい能力、変わりにくい能力
ブラッドフォードは、「変わりやすい能力」「可変的だが変わりにくい能力」「非常に変わりにくい能力」として、次のことを挙げています。
<比較的簡単に変化する能力>
リスクに対する志向性、(技術的・知識的に)最先端であること、教育、経験、自己に対する知識、コミュニケーション(口頭・文章)、第一印象、顧客志向、コーチング能力、目標設定、エンパワーメント
<可変的だが変わりにくい能力>
判断能力、戦略的スキル、ストレスマネジメント、適応力、傾聴、チームプレー、交渉スキル、チームビルディング、変革のリーダーシップ、コンフリクトマネジメント
<非常に変わりにくい能力>
知能、創造性、概念的能力、部下の鼓舞、エネルギー、情熱、野心、粘り強さ
NPO法人中野中小企業診断士会 三枝元
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