-第134回-
高齢者の活用(1)
- 70歳までの雇用義務付けへ向けた閣議決定 -
みなさんは現在の65歳以上の全人口に占める割合をご存知ですか?
2019年9月に総務省が発表した資料によると、65歳以上の高齢者の人口が推計で3,588万人となり、総人口に占める割合が28.4%だそうです。既に3割近くが65歳以上であり、世界で最も高くなっています。また少子化も進展しているため今後もこの割合は上昇していく予想となっています。
このような現状をうけ、政府は2019年6月に70歳までの就業機会の確保を企業の努力義務とする高年齢者雇用安定法などの改正案を閣議決定しました。今年の国会で成立すれば、早ければ21年4月から実施される見通しです。現行においては、ほとんどの企業が「65歳までの雇用確保措置」へ対応されており、定年60歳、希望者全員を65歳まで継続雇用をするといったことを就業規則に定めています。
改正案では、以下のような措置を企業に求めていく予定です。
① 定年の廃止
② 定年延長
③ 継続雇用制度の導入
④ 他企業への再就職実現
⑤ フリーランス選択者への業務委託
⑥ 起業した人への業務委託
⑦ 社会貢献活動への参加
70歳までの就業機会の確保は二段階に分けて法整備を進める模様です。第一段階の法制では、企業に選択肢を明示し、70歳までの就業機会確保の努力規定を設ける予定です。また、厚労大臣が事業主に対して、個社労使で計画を策定するよう求め、計画策定については履行確保を求めるものとなるとのことです。第二段階の法制では、第一段階の進捗を踏まえて現行の高年齢者雇用安定法のような企業名公表による担保(いわゆる義務化)となる模様です。
今年の通常国会に第一段階の法案を提出する予定です。第二段階の義務化の法改正の検討の時期については高齢法の労使協定による基準が可能な経過措置の施行が完了する2025年までは法改正を検討しないとしていますが、実行計画の工程表では数値目標として65〜69歳の2025年の就業率を51.6%に設定しており、目標達成の状況を踏まえて2026年度に検討を着手する可能性があります。
このように、法制化により、企業は高齢者の雇用の義務付けされる予定です。法制化されてから対応すればよいと考えることも可能ですが、高齢化が進展していくことを考えれば、就業規則を改定して対応するだけでは「仏作って魂入れず」になりかねません。
実際、潜在成長率の内訳を内閣府の推計からみてみると、潜在成長率は高まらない最大の理由は、私たちが考えていた人口高齢化により生産年齢人口が減少し、労働投入量が減少するからではなかったのです。むしろ、アベノミクスの期間に入って労働投入量は増加しています。これは、女性の活躍推進や高齢者の雇用推進により女性や高齢者の労働者が増えたためです。その一方で、潜在成長率の要素である生産性は大きく低下してしまっているのです。経済全体の生産性(労働と資本の2要素の場合、労働生産性と資本生産性の加重平均)を示す全要素生産性(total factor productivity, TFP)は、内閣府推計でも日銀推計でも10年程前には1.0%程度あったものが、最近は0.1~0.2%まで低下しています。
この状況は、就業規則を変えるだけで「仏作って魂入れず」とすれば生産性が低下してしまう可能性があることが予想されますね。次回は、どのように高齢者の戦力化をしていくかということをお伝えしたいと思います。
NPO法人中野中小企業診断士会 堀川 一