-第222回-
個性化戦略のススメ
~他社(他者)との「差」に着目するより、自社の「個性」に着目しよう~(1)

みなさんは戦略を立てていますか?戦略とは、理想の姿、夢やビジョンの実現を目指すための方向性や考え方のことなので、ビジネスを行っているみなさんは戦略を立てていることでしょう。今回のコラムが、みなさんにとって、戦略で理想の姿、夢やビジョンの実現に近づいているかを再確認するきっかけになればと思います。

ビジネス書などで目にする機会が多い戦略に「差別化戦略」があります。差別化戦略とは、アメリカの経営学者マイケル・ポーターが提唱した競争戦略のひとつで、他社(他者)との特異性(違いや差)を作り出すことで競争優位性を築く戦略です。差別化戦略では他社との違いや差を作り出すために、他社の環境や戦略、他社の業界でのポジションなどを分析します。差別化戦略のように比較対象があるほうが取り組みやすいのですが、大きな落とし穴があります。

それは、他社との違いや差に着目することが目的になってしまう恐れがあることです。他社を分析することはとても重要ですが、他社と比較し続けて疲弊してしまっている中小企業は少なくありません。

例えば、子どもたちにはどのように育ってほしいですか?「明るく」「前向きに」「たくましく」「心豊かに」「思いやりがある」…など、みなさんそれぞれの中に「子どもたちにはこのように育ってほしい」という願いがあることでしょう。でも、どんなに明るくても、どんなに前向きでも、どんなにたくましくても、どんなに心が豊かでも、どんなに思いやりがあっても、またどんなに学力があっても、自分らしくなければ、「子どもたちにはこのように育ってほしい」という願いとは程遠いでしょう。土台には「自分らしく」があるのではないでしょうか。ビジネスも同じです。どんなに売上を上げても、どんなに規模が大きくなっても、どんなに有名になっても、自分らしくいられないと理想の姿とはかけ離れていることでしょう。

アメリカの心理学者アブラハム・マズローが提唱した「欲求5段階説」で考えてみます。5つの階層、➀生理的欲求(生命の維持に必要な本能的な欲求)、➁安全の欲求(安心して暮らしたいという欲求)、③社会的欲求(社会とつながりたいという欲求)、④承認の欲求(認められたいという欲求)、⑤自己実現の欲求(理想の自分になりたいという欲求)のうち、どの欲求が強いかは人それぞれですが、ビジネスを行っているみなさんは「⑤自己実現の欲求」が強いかもしれません。自己実現の欲求はまさに自分らしくいることです。本来は、それが自然なのですが、他社との違いや差を作り出すことばかりを追い求め、自分らしくいられなくなることもあるのです。

そこでオススメするのが「個性化戦略」です。個性は他社と比較するものではありません。自分の個性を大切にして、理想の姿、夢やビジョンの実現を目指して、自分らしく進むことをオススメします。

次回は、個性化戦略の期待効果についてお話しします。

NPO法人中野中小企業診断士会 梅津勝明