-第110回-
顧客ニーズは「聞く」のではなく「観察する」
― 単に顧客の声を聞けば良いわけではない ―

「商売の基本は顧客の声を聞くこと」「顧客ニーズを解消することが重要だ」とよくいわれます。企業のアンケート調査も活発に行われています。もちろん「顧客の声を聞く」ことは大事なのですが、マーケティングリサーチやイノベーションの世界では、「アンケート調査は新たな製品やサービスの開発にあたってはあまり役に立たない」というのが常識になっています。

1.顧客ニーズとは何か?
まず顧客のニーズとは何でしょうか?一般的には「顧客が何らかの形で発する不満や要望
」と考えられているようです。ただしマーケティングでは顧客ニーズを次の3つに分類して捉えます。

① 明言されるニーズ
顧客が言葉で説明できるニーズ
② 真のニーズ
顧客の言葉そのものでなくても顧客調査で分析したり推測したりできるニーズ
③ 学習されるニーズ
顧客が言葉として発言できないし、思いついてもいないニーズ

顧客がすでに気がついていて言葉に発することができるニーズだけでなく、存在はするが言葉で表現できないニーズ、潜在的には存在するが気がついていないニーズもあるということです。

2.画期的な製品やサービスは顧客の声から生まれたわけではない
顧客は自社の製品・サービスについて、それほど真剣に考えているわけではなく、十分な知識があるわけではありません。いうなれば大抵の顧客は素人ですから、出てくる意見は「もっと安くしてほしい」「もっと営業時間を伸ばして欲しい」「こういった機能やサービスを追加して欲しい」というすでにどの企業でも十分把握しているニーズを発しているにすぎないのです。

高付加価値で競争力のある製品やサービスの開発にあたっては、まだ他社が手がけていないような顧客の潜在的なニーズ(真のニーズ・学習されるニーズ)に注目する必要があります。顧客アンケートで収集できるニーズは、確かに現在の製品・サービスの改良・改善には重要ですが、ありきたりな意見にとどまるので、高付加価値の製品・サービスにはつながりにくいのです。

かつてのウォークマンやスマ-トフォン、Facebookやツイッターなど画期的な新製品やサービスは、顧客の声を拾ったから生まれたわけではありません。単に「こういったものを作りたい」「こういったものがウケるのでないか」といった開発者の主観的な想いや直勘の産物なのです。

たとえば、ソニーが開発したウォークマンは、当時、ソニーの会長だった盛田昭夫氏の「若者は外でも気軽に音楽を聴きたいはずだ」という想いがまず先にあり、顧客ニーズが先にあったわけではありません(実際に発売当初はほとんど売れませんでした)。

アップルの魅力的な製品を生み出し続けたアップルでも、ソニーの井深大氏や盛田昭夫氏を尊敬していたスティーブ・ジョブズ氏の「こういうものが作りたい」「こうあるべきだ」という想いから生まれたことは有名です。Facebookは、当初はハーバード大学内のコミュニケーションサービスとして、「会員専用のコミュニティサイトがあったら面白いだろう」という動機で生まれたにすぎません。

次回は、「顧客の潜在的なニーズに気がつくための方法」についてお知らせします。

NPO法人中野中小企業診断士会 三枝元