-第104回-
知らなくては損する補助金・助成金活用
-事業承継の手順-

前回は、事業承継の種別をご説明いたしました。いずれにしましても、事業を承継するには長い時間がかかるので早めに準備を始める必要があります。
以下にその手順を説明いたします。

ステップ1 情報収集と準備の必要性の認識
前回ご説明した承継方法の検討や後継者の育成など、事業承継の準備には多くの時間を要します。健康問題や経営環境の変化などによって経営者様が事業承継を具体的に検討し始めた時には既に手遅れになっていた、というケースも少なくありません。まずは早い段階で事業承継の必要性を認識し、経営者様が概ね60歳に達した頃までには、専門家への相談などの準備に取りかかることをお薦めいたします。

ステップ2 経営状況と経営課題の整理
事業を円滑に後継者へ承継するためには、経営状況や経営課題、経営における強みと弱みなど、自社の現状を正確に理解することが重要です。強みを伸ばし弱みを改善することで、事業承継後の事業の更なる成長と発展を目指します。

ステップ3 事業承継に向けた経営の改善
事業の整理による本業の強化や財務状況の改善、ガバナンスや内部統制の向上など、上記で整理した課題を改善し経営状態を引き上げるための取り組みを行います。内部で承継する場合も、M&Aにより外部へ引き継ぐ場合も事業の魅力を強化し「引き継ぎたくなる会社」へと魅力を高めていくことが重要です。

ステップ4 事業承継の実行
ステップ3まで進めてきた準備をもとに、事業を承継します。親族内承継の場合は、事業承継プランを策定し、それに基いて資産の移転や経営権の譲渡を進めます。そして、資産の移転だけでなく、社長の経営理念の伝達、人脈の引継ぎや次期社長となる後継者の経営者教育をしなければなりません。一方、近年増加しているM&Aによる第三者への承継を行う場合は、仲介会社へ相談のうえ、譲受候補先企業とのマッチングや条件交渉を進めていくこととなります。

事例)後継者のいない小規模企業がM&Aにより事業承継に成功した事例
D社は消防設備・防災通信設備の設置工事、メンテナンスを行っている従業員11名の中小企業です。小規模企業ながら一定の売上高、利益率を毎期継続中であり、順調に推移していました。社長には子息がいたものの、本人が事業を引き継ぐ意思はなく、後継者の候補者とはならなりませんでした。また、役員、従業員への承継も検討しましたが、簿価純資産額で同社の資産額を算定したところ、1億5千万円程度となり株式価格も高くなることが予想されたため、個人が買い取れる範囲を超えており、役員、従業員への承継は現実的には困難でした。そこで、M&A仲介会社へ売却先の条件として、従業員の雇用が確保できること、オーナー経営者も一定の引き継ぎを終えるまでの期間は代表権のない役員として会社に残ることなどを示し、シナジー効果が見込める不動産管理会社へ売却しました。

やはり何といっても、経営が順調に推移し引き継ぐものにとって魅力的な会社であることが大事ですね。
※M&Aとは、「Mergers and Acquisitions」の略で「合併と買収」という意味。複数の会社が一つの目的のために協力して新しい会社になるといったイメージです。

NPO法人中野中小企業診断士会 堀川 一