-第102回-
顧客にとってのバリューを考えるためのヒント
― 快く買って貰えるようにハードル(コスト)を下げる ―

前回ご紹介した顧客価値の基本式をおさらいしておきます。

「顧客価値=ベネフィット(顧客にとっての何らかの利益・便益)÷コスト」

前回は「分子のベネフィットを上げる」について取り上げましたが、今回は「分母のコストを下げる」について取り上げます。

1.顧客にとってのコストとは?
顧客にとってのコストというと、まず浮かぶのは「支払い代金(売り手側からすれば価格)」です。確かに「支払い代金」はコストの中心になりますが、顧客にとってのコストはそれだけではありません。

コストには、金銭面でのコスト(顧客の支払額)、時間面でのコスト(製品を買いに行く、あるいはサービスを利用できる場所までいくのに要する時間)、肉体面でのコスト(商品やサービスを手にし、据え付けて、利用可能にするまでの身体的疲労)、精神面でのコスト(使い勝手を覚える手間など)があります。

確かに顧客の支払い代金(価格)を下げれば、顧客にとっての価値は上がりますが、企業側としては利益が圧迫されることになります。また、体力で劣る中小企業にとって、低価格販売は現実的でもありません。よって、「他の顧客にとってのコストを下げられないか」考えてみるとよいでしょう。

例)
・インテリア小売業のニトリは、組立が簡単な家具で肉体面でのコストを下げています。
・通販大手のアマゾンは価格が必ずしも安いわけではありませんが顧客の時間面でのコストを下げています。
・高齢者向けのスマホであれば、操作法が楽なものを提供できれば、精神面でのコストの低減に貢献できます。
・多くのメーカーの商品を扱う小売業や卸売業であれば、顧客が選択しやすいように、わかりやすい比較表を示すことも、立派に精神面でのコストの低減につながります。

2.3つの「不」に注目する
顧客にとってのコストを取り除くためには、次の3つの「不」に注目してみるとよいでしょう。

① 使用上の「不便」を取り去る
顧客は製品やサービスの使用にあたり、何らかの不便を感じています。「使いにくい」「わかりにくい」「頼みにくい」などの「にくさ」を「やすさ」に変えれば、大きなコストの節約になります。たとえば、アマゾンは、レコメンデーション機能によって、顧客の商品選択の手間を省いている、ネット注文・即日配送によって、「顧客の買い物に出かける」という手間を省いているといえます。

② 「不必要」を取り去る
みなさんはお使いの製品が搭載している機能を全部使いこなしているでしょうか?おそらく使うのは一部の機能でしょう。一般的に企業は、製品やサービスを多機能化したがる傾向があります。その結果、不必要な機能が多くなり、かえって使いにくくなっているケースが多いでしょう。さらに多機能化の結果、価格も割高になりがちです。
よって、顧客にとって必要な価値の提供にしぼるという方法があります。たとえば、宿泊など最低限にサービスを絞ったビジネスホテル、カットに絞ったQBハウス、シンプル携帯電話、立ち飲み屋などがあります。

③ 「不安」を取り去る
一般的に顧客は何かを買ったあとに何らかの後悔を感じるといいます。「あまり必要ではなかった」「他のものにしておけばよかった」という経験は誰でもあるでしょう。顧客はそうした不安があるので、購入を躊躇することがあります。
顧客が購入する前に感じる不安を取り除くことができれば、顧客にとってのコストに貢献できます。たとえば、返品自由、価値保証(成果課金)、従量料金制、お試し利用などです。

顧客価値の基本式である「分子のベネフィットを上げる」か「分母のコストを下げる」ことができれば、顧客価値は上がることになります。まだ自社が着目していないベネフィットやコストがないか、自社の製品やサービスによって貢献できないかぜひ考えてみてください。

NPO法人中野中小企業診断士会 三枝元